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Out of thin air

日々の雑感や自作小説、ブックレビュー、映画感想などを気ままに更新するブログ。たまにサラッと毒を吐きます。

ある愛の形

カテゴリー : 短編
 会話劇の練習。全編セリフだけでお送りします。
 原稿用紙6枚程度


「あなたったら何をぼんやりしているの? 式まで時間がないんだから早く仕度してちょうだいよ」
「分かってるよメアリー。だけど僕が朝に弱いのは君が一番よく知ってるだろ」
「もちろんよ。結婚前から毎朝あなたの『あと十分』を聞かされ続けて来たんですもの。だけど今日だけは急いでちょうだい」
「そんなに急かさなくても大丈夫だよ。僕は化粧をしなければアクセサリーであれこれ悩むこともないからね」
「何か棘のある言い方ね」
「だってそうじゃないか。いっつも僕のほうが後から仕度を始めるのに延々と待たされる」
「男以上に女は身だしなみを気にするのよ。あなたみたいに顔を洗って歯を磨いたら適当に髭を剃っただけで外へ出て行く人と一緒にしないで」
「身だしなみに気を使うのは結構だが――式に遅れるほうが故人に対して失礼じゃないかな。壁の時計を見てみたまえ」
「やだ! もうこんな時間。あなたタクシーを呼んでくださらない」
「お安い御用だ」
「まさか私たちの中でケイトが最初に亡くなるなんて。何をするにも先頭で一番元気だったのよ。百歳になったら記念にスカイダイビングをするんだって言ってたのに」
「強盗に襲われるとは運がない」
「タクシーは呼んでくれた?」
「十分ほどで着くそうだ」
「そう」
「浮かない顔をしてるね」
「そりゃ……強盗に滅多刺された親友へ最後の別れを告げに行くんですもの。ウキウキしてるほうがおかしいわよ」
「確かにそうだね」
「私、犯人は身近な人間じゃないかと思うの」
「素人探偵さん。推理ごっこはよして急いでくれませんか。犯人探しは警察に任せればいいんだ。そのために連中は税金から給料をもらってるんだからな」
「そうとしか思えないのよ。ケイトは社交的で明るい性格だったけど警戒心の強い所もあったの。本当に打ち解けた相手しか家に誘わなかったわ。私なんて彼女の家へ遊びに行くまで一年も掛かったんだから。毎日顔を合わせて談笑してる相手でもそうなのよ。見ず知らずの人間がいきなり行って招き入れてもらえるとは思えないわ」
「最初から家の中にいたのかもしれないよ。家捜ししてるところにケイトが帰って来て鉢合わせした強盗が慌てて……」
「それだったら揉み合って大きな音がするはずじゃない。だけど近所の人は誰もそんな音を聞いてない。だから発見が遅れたのよ。警察の人が言ってたじゃない。すぐ病院へ連れて行けば助かったかもしれないのにって」
「そうだったね。それじゃ君は誰が犯人だと言うんだい?」
「――ねえ、あなた。私が誕生日にあげた腕時計どうしたの? 近ごろ着けてる所を見ないんだけれど」
「あれか。あの時計なら修理に出したよ。無様な話だが駅のホームへ上がる階段を踏み外したんだ。まったく歳は取りたくないものだね昔はこんなことなかったのに。怪我はなかったんだけど慌てて手を伸ばしたら、近くの手すりに時計をぶつけてしまってね。そのとき文字盤が割れたんだ。君からの大切なプレゼントを壊したとは言えなくて、つい黙ってしまった。すまない」
「いいのよ。それよりその話は本当でしょうね。女の所に置き忘れてきたんじゃないわよね」
「馬鹿なことを言わないでくれ。僕には君しかいないよ」
「そう。――なら、これをどう説明するの」
「それは!?」
「警察の捜査で遺留品として発見されなかったから安心してたんでしょ」
「どうして君が持ってるんだ」
「あの日ケイトの部屋へ私も行ったのよ。あなたと彼女がどんな仲だか私が知らないとでも思って? 人の旦那に手を出さないでとハッキリ話をつけるつもりだった。そしたら血まみれの彼女が倒れているじゃない。すぐに誰の仕業か分かったわ。ご丁寧に洗面所には腕時計が残ってるし。返り血を洗い流すときに外したのね」
「別れ話を切り出したら逆上されて。君に今までのことをすべて話すと言うんだ。そんなことされたら大変なことになる。信じてもらえないだろうけど僕には君が一番なんだ。腕時計のことは気が動転してたとしか言いようがない」
「無様ね」
「返す言葉もないよ」
「今でも私を愛してる?」
「初めて出会ったときから寸分と違わずに」
「こんなことは二度としない?」
「もちろん」
「そう。それならこれは返してあげる。二度とこんな真似はしないでね」
「分かってるよ。ここで再び神と母親の名に誓おう」
「調子いいんだから。あら? ちょうどタクシーが着たみたい。行きましょうか」


 元は800字ホラーのネタに考えたけど上限を遥かにオーバーしたためボツ。こういう頭のネジが何本か緩くなってるズレた人物は好き。こいつら絶対に何度も同じことを繰り返すね。そして最後は本当につまらないことから足がついて捕まる。

 メアリーの親友が全員殺されるのと夫妻が捕まるの。どっちが早いかの勝負になりますね。

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COMMENT
殺人と殺人者をかばう罪よりも、葬式の時間に遅れることを気にする夫婦のズレた感覚が、いかにもショートショートで楽しめました。ラジオのシナリオみたいね。
>つるさん
 会話だけで二人を描かないといけないので音声のみに頼るラジオドラマに近くなりました。
殺人に慣れっこな感じですね。奥さんw
夫も気が動転してとあるけど、殺人は慣れてたりして。
葬式ふぁぶぃ。
軽快で、しゃれてて良かったですよ。
目指せシナリオライター。
…って、違うか^^
>シンさん
 何度やっても慣れないことってありません?

>火群さん
 実は恐ろしく中身の薄い話だからテンポを出さないとダメだったんですよ。
会話が爽やかで、逆にぞっとしますね。
800字ホラー、もうすぐ発表かな?楽しみですね。
>ia.さん
 800字は22日に〆切で発表は8月31日ですね。
 みんな書けた〜?
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